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TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

アシェラッド役 内田直哉
インタビュー

「ヨームの戦鬼(トロル)」と呼ばれたトルフィンの父・トールズを殺した張本人である一方で、トルフィンが属することになるアシェラッド兵団というヴァイキングの首領でもある、一言では語り得ない男・アシェラッド。トルフィンの人生と『ヴィンランド・サガ』という物語に多大な影響を与える灰色の男を、声優・内田直哉はどのように捉え、演じたのか。役者として、職業人として、原作を愛するいち読者として、など、様々なアングルからこの物語<サガ>についてお話しいただきました。

アシェラッドとの共通点、1000年経っても変わらないもの

――内田さんは最初『ヴィンランド・サガ』にどういう形で触れられましたか?

内田
オファーを頂いて原作を購入し、一気に完読しました。グイグイ引き込まれてあっという間に読み切ってしまいましたし、だからこそアシェラッドという役を演じきるにはダレることのないテンションが必要だとも感じました。

――原作をしっかり読まれた上で収録に臨まれたんですね。

内田
人前では「俺は原作は読まない!」なんて言ってるんですがそれは照れです(笑)。基本的に原作があるものは読むようにしていて、『ヴィンランド・サガ』は原作の完成度が非常に高いこともあってセリフを暗記するくらい読み込みました。最終的には台本の書いてあるセリフが原作と同じものなのかアニメオリジナルなのか直感的に分かるようになりました。

――アシェラッドはもう一人の主人公と言っても過言ではないくらい重要な人物ですが、演じていてどのように感じられましたか?

内田
常に物語の主旋律を担う存在ですよね。彼を通じて物語の全体が見渡せますし、初登場以降物語の中心から外れることなく常に中心にいるので、役に集中できて演じていて心地よかったです。

――そんなアシェラッドを演じるにあたり、彼をどのように理解されましたか?

内田
最初は人物像が掴みにくかったのですが、演じていく中で、過去によって動かされ、目の前の現実によってもまた変化が起きてくるという人間の生き様を感じさせられました。非常に魅力のある人物です。

――彼は100人ものヴァイキングを率いる首領ですが、その点について意識されたことはありますか?

内田
大勢の若い衆を少し離れたところから見ているアシェラッドの立ち位置は、実は収録現場の僕と近いものがあると感じました。荒くれヴァイキングたちを若いキャストの方々が個性豊かに演じているのを遠巻きに見守ったり、スタジオの空気を読んで、役者の先輩としてそれを引き締めたり、というのは、アシェラッドにも通じるものがあったんじゃないでしょうか。人間の社会は1000年経っても基本的な部分は変わらないでしょうから、その点では役に深く入り込んで演じられました。
人間の社会は1000年経っても変わらない

――アシェラッドと関わるキャラクターと、それを演じられたキャストさんについて伺います。部下であるビョルンを演じられた安元洋貴さんとのお芝居はいかがでしたか?

内田
ビョルンはアシェラッド兵団のヴァイキング達とアシェラッドの間に立つ存在ですが、安元もまた若いキャストの兄貴分として僕との間に立ってくれていました。彼は僕と何度も同じ仕事をしていますから、たとえば僕が「スタジオの中では無駄なおしゃべりは厳禁」と考えていることをよく知っています。
でも僕が直接声をかけてしまうと彼らは緊張してしまって演技にも支障が出てしまうかもしれません。そういう時に安元が僕の考えを汲んで、彼らの兄貴分のポジションからちょうどいい塩梅で注意してくれるんです。そういった阿吽の呼吸の関係は、まさにビョルンとアシェラッドのようでしたね。

――主人公・トルフィンを演じた上村さんとのやり取りはいかがでしたか?

内田
彼はスタジオでは物静かで僕と個人的な話をする機会は多くはありませんでしたが、トルフィンのアシェラッドに対する感情について、彼が一番注力して演じているのはすごく伝わりました。トルフィンの抱えたマグマのような感情、溜まっては噴火、溜まっては噴火という爆発力のある芝居をしていたと思います。

――彼の父であるトールズとは第4話で対峙していますが、松田さんとのやりとりはいかがだったでしょう?

内田
松田のトールズの演技が非常に良かったですよね! 第4話は一緒に収録に参加していますが、実際に映像で見ると「いろんなものを背負った男」「落ち着いた男」という芝居がとても立っていましたね。アニメは役者の演技がそのまま反映されるわけではなく画や編集を通じて完成するものですから、こういった印象の変化はアニメのキャラクターを演じる上で面白いところですね。

――大塚明夫さんの演じるトルケルはかなり個性的なキャラクターですが、どのような印象でしょうか?

内田
トルケルは感情の爆発やコミカルさなど、アニメのキャラクターを演じる上での面白いところが詰まった役ですよね。その分芝居の難しい役でもあるので、トルケルを演じられるのは(大塚)明夫だろうな、と思っていました。だからキャスティングを聞いてぴったりだなと思いました。

――この後の物語で登場する王子・クヌートについてはどういった印象をお持ちですか? 小野賢章さんと演技されての印象も含めて教えてください。

内田
原作のクヌートは絵としての印象が非常に引き立っているキャラクターですよね。その一種非現実的なイメージを崩さないようにするためか、賢章はかなりニュートラルな演技をしているように感じました。最終的に映像としてどのように完成しているのか、僕としてもとても楽しみなキャラクターです。
何度も見直してほしい、アシェラッドの第一声

――第2話初登場シーンについての印象はいかがでしたか?

内田
あのシーンは、10年前のアシェラッドの声ということで監督と意見交換をしながら3、4回調整をしているんです。最初に映像を見た時はキーが高いかもと感じて、はた(はたしょう二 音響監督)に撮り直しができるかを確認したほどでしたが、ただ改めて聞いてみると不思議としっくりくる…なので撮り直しはしていません。

――不思議ですね。何が原因だったのでしょう?

内田
その後も何回か聞いてみたのですが、どうやら「第一声のシーンを今か今かと待った上で聞いたのでキーが高く感じた」ということだったようでした。もし視聴者の方の中にも僕と同じように感じられた方がいたら、ぜひ折に触れて第一声のシーンを見直してみてほしいです。若い頃のアシェラッドだけでなく第7話から出てくる10年経った後のアシェラッドの声も聞いた上で改めて第一声を聞くことで、また印象が変わるかもしれません。
もうあなたは『ヴィンランド』の世界から離れられない!

――それでは最後に『ヴィンランド・サガ』をご覧頂いているファンの皆様へのメッセージをお願いします。

内田
これからも怒涛の展開が続きます。半年間に渡る収録もあっという間に感じられるほど引き込まれる作品ですから、わざわざ改めて「ぜひ見てください」などと言う必要はないでしょう。だから僕はこう言うべきです。「もうあなたは『ヴィンランド』の世界から離れられない!」